特定の組に所属しない舞台のスペシャリスト集団『専科』
各組の公演に特別出演し、重要な役柄を演じて舞台を引き締める、もしくは主演として舞台を牽引することのできる貴重な人材が集まっています。
この記事では、多才なスペシャリストが集う専科について解説していきます!
専科の歴史
『専科』は、宝塚歌劇団の『組』とは違い、一芸において中でも高いプロフェッショナルな実力をもつ生徒の集団です。
専科発足当初は特化分野によって棲み分けをしていた過去があり、舞踊専科・演劇専科・声楽専科・ダンス専科などで区切りを明確にしていました。
しかし、近代は一律で専科と銘打ち、特化分野で区切らないことによって専科生は一芸のみに縛られることなく、様々な公演に特別出演できるようになりました。明確な区切りはありませんが、ベテランの専科生に関してはとりわけ何の分野で秀でているのか、その舞台姿を見れば一目瞭然と言えるほどハッキリと強みを持っています。
専科生が各組の公演に出演する際は、基本的には特別出演という形式で舞台に立ちます。
ただし、かつて故・春日野八千代元理事がそうであったように、元雪組トップスターの轟悠理事は、主演として必ず名前を連ね、特別出演を果たします。
他にも、新人公演で主演を務めたことがあり番手が付いていた生徒は、各組の外箱公演で主演として特別出演することもあります。
専科生は特定の組に配属していない“個”の集団です。
出演予定が無い期間は次を見据えてレッスンに通って自己研鑽に励んだり、陰ながらたゆまぬ努力を重ねています。
ストイックに自身の武器を磨き、能力を高め続けていくその姿は、職人そのものです。
宝塚歌劇ファン激震!?新専科制度について
過去にファンの間で新専科制度と呼ばれ、激震が走った人事がありました。
時は遡ること2000年……全組の2、3番手の男役スター(計10名)を一斉に専科に異動させる人事が発表されたのです。
2番手、3番手の男役スターは、そのまま順調に歩みを進めればトップスターに昇格するスター達。
応援する生徒のトップスター姿を夢見て熱心に応援するファンにとって、特定の組に所属しない専科への人事異動は、トップスターへの道が断たれたと同然でした。
この衝撃的な人事発表により公式HPへのアクセスが殺到、大きな混乱となり連日のようにファンから劇団へ非難の手紙が大量に届いたそうです。
この大胆な人事の舵を取ったのが、当時理事長であった演出家の植田紳爾先生。
人事異動の目的としては、トップスター候補を特定の組で安住させず、各組への特別出演や外部出演を通じて更なる成長を促すこと、
その上で組の枠を超えたトップスターの人選を行い、フレキシブルな人事を実現させること、また各組においてはスター性のある若手の番手を繰り上げ、組全体の若返りを謀ることでした。
大波乱を呼んだこの新専科問題ですが、結果としてはこの騒動で専科に異動したスター10名の内、6名がトップスターとなりました。
この騒動で専科に異動したスターは全員退団しましたが、今も尚トップスター候補として育成されてきたスターが専科へ異動するケースは、稀に見受けられます。
専科の有名な生徒やOG
轟悠
専科の顔として存在するのが、劇団理事を務める元雪組トップスター、轟悠。
本物の男性と見紛うほどの突き詰められた濃密な男役芸に定評があります。雪組生時代に出演した『エリザベート』初演では、物語のキーパーソンとして狂言回しを担う大役のルキーニを演じ、絶賛を浴びます。舞台を観にきた本場ウィーンの制作スタッフは、ルキーニ役は本物の男性が演じていると信じきっていたほどでした。品位を保ちながらもリアルで渋い男性像を確立している轟悠は、「トップオブトップ」と長きに渡って称されており、男役芸の極致に挑み続けています。代表作と言うべき名演は多々ありますが、『エリザベート』のルキーニ、『風と共に去りぬ』のレット・バトラー、『ドクトル・ジバゴ』のユーリ、『チェ・ゲバラ』のエルネスト・ゲバラは、渋みと深みを追求した轟悠の男役芸における真骨頂と言えるでしょう。
北翔海莉
OGで語りたいのは、紆余曲折の宝塚人生の果てに栄光を掴んだ元星組トップスター・北翔海莉。
音楽学校入学前に芸事の経験がなく、入学時は最下位の成績であったにも関わらず、文字通り人の3倍稽古に励んだ結果、宝塚歌劇団入団時の成績は39人中10番目に。
入団後もたゆまぬ鍛錬を重ね、特に歌唱力に秀でたタイプですが三拍子揃った芸達者なスターとして活躍します。
月組時代は新人公演やバウホール公演で何度も主演を果たし、宙組へ組み替え後も3番手として活躍しますが、まさかの専科へ異動。
専科へ異動後は、その卓越した歌唱力とオールラウンダーな実力で特別出演を重ね、実力派スターとして着実に歩みを進めていきます。
自らの実力で評価と人気を確立し、2015年には星組トップスターに就任しました。
専科時代に特別出演した作品は、既存の概念に縛られることのない自由な表現で、その実力を惜しみなく発揮していることがわかります。
オペレッタを舞台化した『THE MERRY WIDOW』のダニロ・ダニロヴィッチ伯爵、大人気ミュージカル『エリザベート』のフランツ・ヨーゼフは、突出した歌唱力を全幕通して味わえる北翔海莉の代表作と言えるでしょう。
まとめ
高度なスキルで宝塚歌劇のレベルの底上げに貢献する、心強いスペシャリスト集団である専科。職人芸とも呼べるその実力は、各個人のたゆまぬ努力の結果です。
どんな時も前向きに自己研鑽に励み続けるその姿は、宝塚のモットー「清く 正しく 美しく」そのものと言えるでしょう!
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